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 この頃はBoulezのLe Marteau sans maîtreの分析に取り組んでる。取り組んでるっていうか、まーなんというか実態はもう息も絶え絶えなんですが。今年は楽理の音楽学演習をとっていて僕も発表することになっていたのだが、期日が近づくにつれて段々やる気と焦りがでてきて、腰も重くなるなかちまちまとやっている、という具合。

 Marteauの一般的理解といえば、a.)ブーレーズがトータル・セリーのどん詰まりのなかで、方法論を徹底するかたちでそれを内破し、「作曲」の領域を新たに獲得するに至った、戦後を代表する記念碑的な作品である。b.)しかし一時まで分析不可能と目されていたように、複雑で特異な方法論を用いているらしく、良く分からないところも多い、およそこんな感じだと思う。少なくとも不勉強な僕の理解はそんなもので、今回のように外から取り組む機会を与えられなければ、曖昧な理解のままだったかもしれない。

 Marteauを分析しようと思うと、必ず青い本にぶち当たることになる。これは1990年にLev Koblyakovという研究者がまとめたピッチに関する全楽章の分析を記した専門書で、なんとスケッチも本人の証言もなしにスコアだけで分析を試みて、かなり正確に「解読」したというちょっと凄い仕事である。ブーレーズの創作の気合いが一方にあれば、こちらは研究の気合いで張ったというところか。Koblyakovは本書執筆後にはじめて本人に内容を読ませ、合ってる、すごい、と言わしめたのだそう。

 ちなみに10年前にはザッハ―協会と何人かの音楽学者によってまとめられたファクシミリ集が出版された。Kovlyakovの青い本はピッチの分析だったが、ファクシミリを見ると音価ダイナミクスなど他の要素についても分析の手がかりがつかめる。僕は「激怒する職人」ツィクルスの作曲原理を調べており、ファクシミリをみると詳細な計画表が残っていて、これがおもしろい。しかしながらファクシミリは全体的に肝心なものに限って欠落していたりしてて、方法論の全容をつかむのはなかなか難しい。ゆえにまだこの曲には隠されている秘密が多い。

 それにしても作曲家が生きてるのに、この分析研究をめぐる経緯はちょっと奇妙でもある。率直にもっと作曲家に語って欲しいものだが、と思うのだけど、あまり情報を開示しないあたりは本人の性格によるものだろう。おそらく。多くの作曲家が抱いたであろうもやんとした気持ちを、僕もまた今思っている。

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